メディアジャパン学園ブログ

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ジョセフは俺の腕の中で目を閉じてからずっと何日も眠り続けている。
呼吸こそしているが、今は病院の赤ちゃん用の保育器の中にいる。
俺はあれから引っ張りだこの日々を送りながら、ジョセフの様子を見に毎日病院に通っている。
くたくたの身体を椅子に預けてジョセフを見ていると、なんだか不思議な気持ちになる。
ついこの間まで、俺の先生のように賢くて、ぶっ飛びに面白くて、頼りになるジョセフが、今はまるで俺の子供のように感じる。
「守ってやりたい。」
全身真っ白な産毛に包まれたジョセフは箱の中で小さな寝息を立てている。
その様子は痛々しい感じではなくて、周囲に安らぎを与えてくれる赤ちゃんの寝顔のそれと同じだ。
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「なんだ?!あれは?!」
「What is that ?! 」
会場中の人が天井のジョセフに釘付けになった。
ジョセフはわざとみんなの頭スレスレのところまで低空飛行で風を切る。
「ワーッ!!」
さっきまで立ち上がって怒鳴っていた人たちがジョセフが旋回してくる度に身体を沈める。
報道陣は走り回って写真を撮る。都合よく地元のTV局も来ている。当然そのカメラも今は天井に向いている。
場内の様子をステージから見ていると俺も新庄さんも予想以上の反応の激しさに思わずにんまりとしてしまう。
空中ショーを一通り披露してジョセフはステージに舞い降りた。
俺はもう一本用意していた少し背の低いスタンドマイクを中央にあ 続きを読む…
京都に着いたのは午前10時を過ぎた頃。俺たちの「真実の発表」をするため国立京都国際会館へ向っている。
京都駅から地下鉄で約20分くらいだっただろうか?底冷えのする京都と聞いていたがそうでもない。
温暖化が進んでいるせいか、俺がやや興奮気味なせいかも知れないが寒くは感じない。
東京に比べてはるかに人の少ない静かな町だ。駅からは新しそうな道が続いている。
何も目印らしき高い建物がないので、60代くらいのおばさんに道をたずねると京都弁は聞きなれないが、すっと心の近くに来る優しい感じがする。
「はあ、国際会館はあっちがわやねぇ。この道を渡ってから、まーっすぐ歩いて行かはったら、国旗がいっぱい立ってるとこ 続きを読む…
翌日、集まるはずのメンバーが11人から3人に減った。
予想以上にみんなの反応は弱気だった。
理由は様々だ。
風邪を引いたというスタンダードな言い訳の電話からはじまり、緊急の用事が入ったとの連絡が立て続けに二人。
一番許せないのがメール。【今回の研究に相違点が見られ、自分の研究資料を取り下げたい。】または、【もう少し研究する必要があるので発表は時期尚早と判断。】とどめが、【研究内容に手違いがあった為、すべての内容を取り下げる。】という腰の抜けたあり様だ。
正直に、【脅迫メールを受けたので、これ以上協力が出来ない。】と電話で事情を話してくれたのは一人だけ。
もう一人はジョセフが「無理に引き止めません 続きを読む…
俺たちの研究発表まであと一週間となった。
連日慣れない打合せが続く。膨大な資料を限られた時間にすべて説明できるわけじゃない。どこを要約して話すかを多くのプロジェクトメンバーと何度も検討する。
これまでの自分ならば到底同席して話すこともなかったであろう一流の地質学博士や生物学者、水質研究家、宇宙科学研究所員。みんなちょっとというか、随分変わり者が多い。
こだわっているものがあると、一般社会からはやはり変わって見える節がある。菜食主義、嫌煙家、哲学的、個性的。
共通するのは皆、自分のやっていることに壮絶なまでの努力を惜しまない。そして自分に自信をもっているのが話し方や他に流されない態度からわかる。
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「ジョセフ!やっと一つ目の仮説が裏づけされたよ!!」もう何日も前からこの一言を声高らかに言えるのを待っていた。
会社を辞めて半年近くが経過していた。すでに11月。今年の渡り鳥たちをすぐには救えなかった。それが残念でならない。だけど一歩一歩あきらめずに続けてきた。そうしてやっと地球環境がどのように変化しこれからどのように対策すべきかの仮説を立てている。
そう渡り鳥たちを救うことは、連鎖環境として地球上のあらゆる生態系の命を全うさせることに繫がる。
「ヒロシ、やっとスタートだね。僕は早速この仮説に基づいた対策と環境保護の方法をヒロシが発表できるよう協力を世界中の仲間に要請するよ。」
ジョセフは一冊の 続きを読む…
会社を辞めてからの俺の生活は一変した。俺とジョセフの予定は朝も夜も関係なく埋め尽くされていく。
おびただしい作業とメールのやりとり。初対面の人に会うこともしょっちゅうだ。
渡り鳥からの情報から仮説を立てる。それも一つじゃない。あらゆる可能性を考える。
当然一人じゃ解らないことだらけだ。各方面の有識者の協力を得るにも苦労がたえない。ジョセフと俺の使命について理解してくれている人はまだ依頼しやすいが、事情を話すわけにはいかない人たちの方が多いのだ。
すると当然、ついこの間まで環境問題のド素人だった(今もあまり変わらないが)俺に協力をしてもらうには困難を極めた。
「ヒロシ、また研究見積もりが来ているよ 続きを読む…
特別な日におろそうととっておいたワイシャツをビニール袋から出した。去年のボーナスで買ったきり特別な日は来なかった。
このワイシャツを買うときはまさか退社する日に着ることになるとは思いもしていなかった。
白地だが良く見るとストライプの織り柄が同じ白で入っている。ケイコが去年のバレンタインデーにくれた淡いパープルと紺のレジメンのネクタイを合わせた。
鏡にネクタイを絞めている自分の顔が映る。少し親父の表情にだぶった気がした。今はそれが少し誇らしく思える。
この三ヶ月、俺は初めて社会人として自覚を持って過ごせたように思う。気づくのが遅かった。だけどその分、自分自身の全身全霊をかけて毎日を過ごした。
そう 続きを読む…
夕暮れの水面に海から帰ったクルーザーが休んでいる。
年に4〜5回は来るケイコの好きな場所。シーサイドのレストランカフェは俺には不向きなメニューが多い。
だけどお気に入りが一つだけある。茄子とトマトのガーリックソテー。オリーブオイルに塩、コショウと思われる単純な感じの味が馴染める。
安いシャンパンにもよく合う。
そしてここに来るもう一つの理由。
何より俺の逃げ場がある。
ケイコとの会話で俺が即答できないときにはスッと窓の外に目をやれば海やクルーザーに「間」を助けられる。
水辺が好きなケイコもしばし景色に同じ「間」を自然と置いてくれるからだ。
今夜はこれくらいの「間」を求めた。
ケイコも迷わずここを 続きを読む…
「ジョセフ!どうしたの?なぜ辞表を破いてしまうの?」ケイコは旋回しているジョセフに怒鳴っている。
「ケイコ。もうこんなもの必要ないのさ。」ジョセフが最後の紙の切れ端を空に撒いた。
「必要ないって、会社に残るの?」今度は俺の両肩を揺すった。
「いや、そうじゃないよ。ただ。」
「ただ、何?細田係長から止められたのね?」
「いや、違うよ。ごめん、ケイコ。ちょっと時間をくれないか。俺も今かなり動揺しているから。」
いつも職場ではクールなケイコが俺の事でこんなに感情的になってくれている。俺は逆にケイコの両肩を撫でた。
ケイコは俺の目をじっと見つめながらまばたきもせずに何かを読み取ろうとしている。
ふと目を 続きを読む…
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